フロンティア学院

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平家物語の論文を読まずに分かったつもりになる

最近、一体何をしていたのかというと昔の論文をひたすら読もうという試みは予想通り早々に飽きたので、 興味のある平家物語周辺に絞って追いかけていた。

とはいえ平家物語の論文だけでも全部読むのはやっぱり大変なので、 『日本文学』に掲載されている論文の参考文献を全部抽出し、参照被参照関係を確認した。

これは偉い人が引用する文献は偉いだろうという推測で、最終的に必ず押さえておくべき研究者が残るだろうという仮説だ。

対象としては平治・保元を含めてだいたいそのへんのワードが出てくるものを絞り込んだ。

調査結果

それぞれ三人以上から参照し合っている著者まで絞って、『日本文学』掲載者としては次の著者が残った。

せっかくなので並べておく。

なお参照論文自体は『日本文学』掲載論文とは限らない。

  • 永積 安明
  • 桜井 好朗
  • 栃木 孝惟
  • 福田 晃
  • 山下 宏明
  • 杉本 圭三郎
  • 佐々木 八郎
  • 生形 貴重
  • 兵藤 裕己
  • 佐伯 真一
  • 砂川 博
  • 日下 力
  • 原水 民樹

所感

集計するまでも無く頻出の人は覚えてしまうので、参照まで意識しなくても単にリストにするだけでもいいと思った。

常識かも知れないが、論文の最初のとっかかりとして使える手法ではないだろうか。

また、上記リストから脱落した人も含め、学会誌に何度も出てくるレベルの人は頻繁に引用されるので、 このあと平家物語関連の書籍を読むと、大体どれかの人が出てくることになり、非常に読みやすくなった。

名前だけでも知ってる人が出てくるというのは安心感がある。

逆説的に、上記の人がまったく出てこない解説本で独特の解釈をしていたりすると、大丈夫か?という目を持つことができる。

www6.plala.or.jp

たとえば、このへんのブックリストはもう知ってる人だらけになった。やったね。

あと余談だけど参考文献の書き方ってすげえ厳しく言われた気がするけど結構いい加減なんだなって思った。

文学部ならではなのか、流派なのかなんなのか人によってぜんぜん書き方が違うので自動抽出とかもしづらいしGoogle Scholarは偉大だなとか思ったりした。

実は多少読んだ

読むのは大変と言いながら、調査の途中で興味のある論文は少し読んだ。

読まなくてもタイトルや参考文献の傾向で内容がなんとなく分かる。

平家物語に関しては、時代の流れに沿ってざっくり次のような議論が交わされてきたようだ。

  1. 平家物語は民衆が作ったプロレタリア文学か?
  2. むしろいろんな人が関わることで共同体を破壊したのか?
  3. なぜ変化しながら生き残ってきたのか?
  4. どういった構造をもつのか? その意図は?
  5. 諸本での違いから分かることはないか?
  6. 他の説話や物語との違いは?
  7. 他の時代やジャンルでの受け入れられ方は?

『日本文学』ゆえに文学寄りの議論であり、直近も五年前までとなるが、 近年は諸本比較から、同時代の類似ジャンル本、または後世での翻案との比較で変遷の傾向を辿るような内容が多い。

ところで自分は大学在籍時に平家物語の諸本比較で云々みたいなことをやったのだが、上記で言う5の内容で、年代的にもジャスト一致していた。

このテーマを勧めていただいた教授は時代の動向を的確に捉えてて本職すげーなと、分かってたけど改めて思った。

というか当時になんでそれ調べなかったの?って思う。

※答え:まだWeb公開されていなかった。

なぜ論文を読むのか

ということが分かったところで、正直、解説本を何冊か読めば主流の学説は知ることができるので、あえて論文を追いかける必要があるかというと悩ましいところがある。

メリットとしては、特定の話・人物・事象に絞って、ピンポイントで誰かが何をどうやって考えたのかを知ることができる点だろうか。

たとえば平知盛のカッコイイ決めゼリフは本当にカッコイイのか?みたいな話題*1はそこまで深掘りされないというか、しきれない。

文学の研究ってあまり体系化されていない気がしていて、とっかかりがなさ過ぎるというか、読みづらいし分類もしづらい。

その代わり、そういう切り口もあるんだって発見があるのは面白かったりする。

これから

平家物語については、このまま他の学会誌や紀要も眺めてみたいのと、史学系ではまた違う流れがあるんじゃないか、といったことが気になっている。

ただ引用論文の出典元を探してもWeb上で見られないものが多く、そういったもので気になる内容は図書館で探す必要がある。

マイナーな紀要とかだと手に取るまででさえキツイので、デジタル化に期待したい。

なお今回は平家物語をテーマにしたが、その過程で目次をひたすら追っていく中で、文学界の流行り廃りみたいなものが見えた気がした。

論文一個一個読んでいくと本当に何十年もかかると思って速攻で飽きてたので、「目次だけ読む」という勉強法もアリなんじゃ無いか思う。

とりあえず目次列挙して、気になる奴はあとから読んでみればいいしね。

J-STAGEはWeb公開してない論文とかコーナーの扱いが微妙だったりするので、目次をメモしていくだけでもまずは有用だと思う。

本を読むときはまず目次だけ読んで判断したりするんだけど、目次自体が勉強になるってのが発見だった。

というわけで平家物語を中心に続いたり続かなかったりしていきます。