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『墨子』を読む(備城門篇1)

突然だが墨子とは何か?とか、その思想の詳細については他を参照して欲しい。いずれ触れる機会もあるだろうが、今はその時では無い。

墨子 - 中國哲學書電子化計劃
中国のサイトでは全文を読む事もできる。読むべき古典がこうしてアクセスのしやすい状態にあるという点では、昔も今も中国は最先端だ。他に任せよう。


ここで取りあげる内容、それは城攻めに関する当時の各論が詳細に記されている備城門篇以下だ。

当時、儒学と並ぶ勢力を誇ったにも関わらず、歴史の中に埋もれてしまった墨学。

彼らは平等と平和を訴えながら、しかし戦いとなればべらぼうに強かったという。いかにもアニメ臭い設定というか、要はアークエンジェルフリーダムガンダムである。

その強さの秘密が今、解き明かされる!


なお内容は漢籍国字解全書を底本として、文字起こしと平行して読解していく予定だ。
漢籍国字解全書『墨子』 - フロンティア学院図書館

前書き

兵法書に於ける古代の具体的な戦い方について、興味はないだろうか? ぼくはある。

孫子』には火攻篇や用間篇があるし『六韜』には有名な虎の巻がある。

しかし、近年こうした書が取りあげられると、ビジネスに役立つ!今でも役立つ思想!だのと、それは正しいのだが、この各論部分がまったく無視されてしまっているのだ。辛うじて触れていても「火を放つように新製品を投入しよう」などと謎の解釈がされていたりする。そんなこじつけをするなら何でもビジネスに役立つだろう。(その心がけは間違っていないのだが)

しまいにはファンタジー向け戦術戦略図鑑みたいなものですらその傾向があり、何の雑学なのかも不明だ。

中でも墨子は特に思想書の方面が強いらしく、ナントカ全集とかで出てる墨子の解説書を読んでも大概備城門篇以下は関係ないとか意味不明とかでカットされている。

とはいえ古代中国のことなので、実際意味不明なところもあるかもしれない。突然ビジネスにこじつけ始めたりカットしたりするかもしれないが、出来るだけ皆さんも城の防御が実践できるようなテキストになるよう心がけます。

孫子六韜はよそにあるのでそっちを見てね。

では早速読んでいきます。

城攻めの基礎知識

城攻めに用いられる技術は次のものがあるが、どないすんねんという会話から始まる。

  1. 空洞
  2. 蟻傅
  3. 轒轀
  4. 軒車

まず、これらはいったいどういうものなのかを整理しておこう。

高所より攻めかかることをいう。臨車を一例として挙げており、高所より矢を射かける兵器だそうだ。それに限らず、高所を征する事は戦いを有利に運ぶことになる。『孫子』にも「軍は高きを好み」とある。

臨車の資料は見つからなかったが巣車が近いのだろうか。これは偵察用の気もするけど。

『武経総要』より「巣車」

長鉤を用いることをいう。鉤縄を城壁に引っかけて崩したり、昇ったりといった使い方が想像される。

衝車を指す。いわゆる破城槌で、壁や門を突き崩す用途に用いる。むかしAge of Kingsで見た。丸太を抱えて突撃なんてのもよく聞く。
『武経総要』より「撞車」

はしご。城壁を飛び越える目的で用いる。
『武経総要』より「雲梯」
ただのはしごから飛行機に乗る時に使うみたいな奴も含めていろんなバリエーションがあるみたい。

たとえば太白陰経に「有栝梯長一丈二尺」とあるから、中国換算で長さ4メートルほどのはしご車ということになるのだろうか。

http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ro12/ro12_00002/ro12_00002_0002/ro12_00002_0002_p0016.jpg
『五経図彙』より。これを見ると臨車も衝車も似たようなもんで、雲梯と鉤もセットで使ってるようなことを書いてるように読めるが、まあバリエーションとして組み合わせはするだろう。

ところで雲梯車で検索するとはしご消防車が出てくる。

山を築いて城内を窺うとの事。臨を行うための手段の一つであるように思える。

水攻めの事。

穴を掘って城内へ侵入する事。

注には穴と同じだが詳細不明とある。備突篇を参考にしよう。

空洞

これも穴突の類なりとあって身も蓋も無い。

蟻傅

孫子』の謀攻篇の解釈では「蟻のように城壁に取り付いて攻撃する」とある。物量作戦といったところだろう。なお孫子ではこれを悪例として挙げている。

轒轀

防御を施した車で、城壁に取り付いて攻撃するとある。破城槌よりはショボそうに思えるが、工兵なんかが乗ったんだろうか。

孫子』やら『太白陰経』やらにも出てくるのでメジャーな兵器らしい。
『武経総要』より「轒轀車」

軒車

詳細不明とある。楼車では?との説が紹介されているが、そうなら臨の類と言えそうだ。
『武経総要』より「楼車」

まとめ

城を攻めるには12の方法があるぜ! とは言うが、基本は次の四点。

  1. 城外から攻撃する。
  2. 壁や門を飛び越える。
  3. 壁や門を破壊する。
  4. 壁や門の地下をくぐる。

そのための兵器が12あるぜ!という事と考える。

以下、城の基本的な備えと、各兵器に対する打ち手が展開されていくはずだ。続く。