フロンティア学院

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三浦徹『昆布を造る神』を公開しました

フロンティア学院図書館に蔵書が増えました。

三浦徹『昆布を造る神』 - フロンティア学院図書館

 

さて、旧約聖書にはマナと呼ばれる食物が登場する。

それはウロコのような白いせんべい様のもので、神より与えられたこの食物によりユダヤの民は生きながらえたという。

マナ (食物) - Wikipedia

正直な所、空から降ってくるせんべいと聞いて、あまりおいしくはなさそうに感じた。

wikipediaの説にあるように、リンゴの輪切りのような物を想像しておくべきだろうか。

本書の舞台となる北海道の地では昆布が毎年獲れるのだというが、ある老婆は「それは神様が造ってくださったものだ」と言う。

この昆布をマナになぞらえて考えると、なるほど布教譚としてありそうな話に思えてくる。

 

しかし特にそういった聖書こじつけ物語ではなく、内容は至って単純な信心あるある話だった。土着の民が真理を悟っている、という展開は鉄板ではあるが外れてもおらず、短編の説話としては楽しく読める一作ではあった。

 

三浦徹とキリスト教

作者の三浦徹は明治期の牧師であり、調べると岩手県の教会などに関わっている。

教会の歴史 of 日本キリスト教団下ノ橋教会

他に三浦女学校なんてものも出てくるが、これは別名ギャンブル女学校とも呼ばれており、結局4年で廃校になったそうだ。ずいぶんな賭けをしたものである。

 

彼の著作は本作の他にも国立国会図書館デジタルコレクションにて検索できるが、それらに本作ほどインパクトのあるタイトルは見受けられない。おそらくはどれも信心あるある話であろう。

google先生によれば彼は児童文学方面での活躍があったようだが、それらしきものはデジタルコレクションにはないことから、まだまだ未発掘の著作がどこかに眠っているように思われる。

本書の出版年とされている1888年同志社大学の設立年でもあるが、彼の著作はこの時期のキリスト教布教についての一資料として貴重であるかもしれない。

作品としても、仏教説話とか、芥川龍之介キリスト教ものとかが好きな人にはおもしろく読めるのではないかと思う。

ただ、これらその他の著作については今のところ私の方で入力の予定は無いので、興味のある方は是非蔵書追加に貢献してほしい。参加表明をお待ちしている次第だ。

 

変体仮名と句読点

ところで、この時代の版本は崩し字ほどではないが変体仮名がふんだんに使われており解読が難しい。

しかし本作などは自費出版(だと思う)にも関わらずずいぶん丁寧で、校正どうなってるんだ案件が多い中でも大変よみやすく、児童文学のような分かりやすさの要求されるジャンルに行き着いたというのは納得が出来る。

読みづらいと言えばこの時期の版本は句読点が一切無い。調べてみると、そもそも句読点が使われたのは明治以降の事であるらしい。以下のサイトが詳しい。

横書き文の句読点について

とはいえ、井原西鶴の例にあったように読点という概念自体は存在していたのだから、それが活字になって消えてしまったのは不思議な事だ。庶民向けであるから、と考えても、本書を始めどう考えても庶民向けの本でも消えている。研究のテーマたりえるかも知れない。

 

読める『句読法案』

その句読点の使い方を正式に定めた例として『句読法案』なるものが挙げられているが、なんとこの本も国立国会図書館デジタルコレクションで読めるのである。

国立国会図書館デジタルコレクション - 句読法案・分別書キ方案

 

調べた際に出てきたのだが、その改訂版も存在していた。

国立国会図書館デジタルコレクション - くぎり符号の使い方 : 句読法案


どちらも表組み等がやっかいではあるが20ページ程度と短い内容なので、誰か入力に挑戦してみたりはしないだろうか。と、一つの記事で二度も協力者を募る厚かましいステマ記事であり、しばらくは練習と賑やかしも兼ねてこうした小品を幾つか置いていこうと考えている所存であります。