フロンティア学院

パブリックドメインから世界をめざす

『武家義理物語』を公開しました

というわけで、選ばれたのは井原西鶴でした。

井原西鶴『武家義理物語』 - フロンティア学院図書館

何このサイト?

なんでこの作品? みたいな話を書いていきます。

フロンティア学院図書館

以前より度々書いている他のパブリックドメイン文献サイトに関する問題を一切無視して、自分で勝手にやろうとしているサイトです。

無いよりいいじゃんぐらいの気軽さで、そして、より堅いサイトへの協力機会があれば積極的に参加していく、というスタイルで、宝の山である国立国会図書館デジタルコレクションから色々見つけて行きたいと思っています。

所で国立国会図書館デジタルコレクションについて「国デコ」表記してきましたが、どうも「国デジ」にまとまっていく方向があるようなので、今後長いものに巻かれていきます。

 

ダウンロード形式

kindleで読めるmobi形式と、それを作るために用意したepubを置いています。mobiの出力結果は確認していますが、epubはマトモに確認できる環境がないため、表示の正確さは保証しません。皆さんの寄付をお待ちしております。

また、この手のファイルを初めて作ったので、不備がありましたらお知らせ下さい。

 

武家義理物語について

はじめに

実は大学では近世文学を中心にやってた自分ですが、それは中世を扱うゼミが無かったという理由もありつつ、江戸の版本がもう雑多で玉石混交な所が面白くて、興味自体は持っていたというのも理由です。

それで当時の大衆小説作家である井原西鶴の作なんかは今読んでも普通に面白い。特に武道伝来記の「愁の中へ樽肴」という話が大好きで、これをテーマに「タヌキモ」という曲も作っています。CD作品ですが以下で一部試聴できます。

www.nicovideo.jp

それはさておき、同じく武家物である「武家義理物語」の名は聞いた事はありましたが、読んだ事はありませんでした。それもそのはず、入手できないのです。重くてデッカイ高い本を買えばまだ読む事は可能ですが、私如きのような者がおいそれと手が出せる代物ではありませんし、何よりkindleではないので読みにくいです。

そういったことでまずは読みがてら図書館の第一号作品として取り組む事となりました。

 

底本

安定の岩波書店なので安心、と思いきや妙に読みづらい。なんと読点が見あたらない! 他の全集を読むとちゃんと句読点が整理されていて読みやすくなっています。が、底本の親本を参照した所、むしろこちらの方が正確に翻刻されているようなので、強行しました。

部分的に変えるだけでいけるはずなので、他の全集版もすぐに作れそうですが、武家義理だらけになっても不気味物語なので、今後検討していきます。

 

おまけ:底本の誤植

この本では、親本でもそうであるようにすべての文章が句点「。」で接続されています。が、第六巻の三話で唯一「、」が使われています。これはもしや西鶴文学に読点を用いた表現の生まれた瞬間なのでは!?とドキドキして親本を確認した所、該当箇所は「。」になっており、ただの誤植でした。

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2554879/16

(右ページ七行目)

こんな比較もPC一つで出来てしまうなんて、良い時代になったものだと思います。

 

武家義理物語を読む

タイトルから義理人情みたいな話を期待していたのですが、なんというか義理チョコみたいな話でそれはどうなんだよと笑ってすらしまうものが多い作品でした。

特に心に残った話を三つほど簡単に紹介します

 

1.ある武士に婚約していた姉が病で醜い顔になったので体面が悪かろうと代わりに妹を寄越したが、武士はそれを見抜いて義理を通し姉と結婚してやがて成功した話。

と書くと美談なんだけど、義理で結婚したので愛欲に溺れる事もなく武芸に励み、嫁もそれを分かって夫を支えたので成功しました! という結論なので、いいのかよそれ……と考えさせられました。

 

2.無実の罪で幽閉された美男子とその母が貧困で死にそうな所、何年も食料を送ってくれる人があった。放免と成った後、その人を探すと昔自分に恋していた男だったので以下略な話。

親子で礼を述べた後、母親は席を外して二人きりでその後はヽヽヽヽともうただのエロ本。やたら描写が生々しい。

 

3.美男子が転勤で彼氏と別れる事になり、転勤先で男Aに言い寄られるも彼氏の旨を話した所、それを見た男Bが俺を振ったのに男Aと仲良くするとは何事ブッ殺すと決闘を挑むが誤解と分かり平和に終わる話。

樽肴の話と似てるんだけど、しょうもない誤解から大変な事になりかけて、こっちはならずに終わる話。男Bの言いがかり具合がハンパ無いんですが、昔、女の子に「彼氏とやってるんだから俺にもやらせろよ」みたいな事を言ってる人を見たので、あれは江戸にもう既にあった伝統芸能なのだと知りました。

 

まとめ

他の作品や、忠臣蔵なんかを見てもそうですが、こういう作品になるという事は、むしろ作品で描かれるような好人物は滅多に存在しなかったのだろうなと考えられます。

義理人情と言いはするものの、昔の人はこうだった、というよりも、こうした義理立てには昔から憧れがあった、そしておそらく実際にはなかなかこうはいかなかったという点で、江戸も今も変わらないなーと思えますし、身近に感じる事ができる作品でした。

 

予備情報

最初の二巻ほどだけですが、他の方が文字起こしされた現代語訳もあります。古典がダメな方はこちらをお楽しみ下さい。

http://www.geocities.jp/kyoketu/1152.html

というか、フロンティア学院図書館は必然的に古典がメインになるのでなんとか読めるようにしておいて下さい。私も内容が読み取れる程度にしか読めておりませんが、それでも楽しめます。そして宝の山から一緒に宝を掘り当てましょう。

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